メカニカル軸の慣らしと傷

キーボードTips

アイキャッチは Little switch lore, part 2: This is how a mechanical switch is constructed より引用

メカニカルキーボードスイッチは何週間かの慣らしが必要です。概ね100万回の押下が目安です。
新品のスイッチを使用すると摩耗によって小さな傷がつきます。メーカーによって傷のつき方が異なり、Cherry MX製は「まるで砂のようだ」という悪名で話題です。

傷の改善

軸に傷がつくのは可動部品である以上は宿命です。その傷を改善する方法があります。

慣らし打鍵

購入直後が最もザラザラした不快な感触を与えます。軸を慣らすための機器もありますが、普通に使用するだけでも慣熟していきます。ただし、通常使用の場合は軸の場所によって押下回数に大きなばらつきがあるので、専用機器を使うことが一般的です。

現代においては二番目の方法が主流となっており、慣らし打鍵をする人は稀です。

ルブを塗る

スイッチに潤滑油を塗る方法は昔はそれほど一般的ではありませんでしたが、近年では安価なルブキットが流通したことで、非常に一般的な方法の一つになりました。

ルブを塗ることでスイッチの傷が改善し、打鍵音も打鍵感も改善します。また、慣らし運転ではできない「スプリングの金属音」を抑制する働きがあります。

ルブを塗ることで軸の傷が完全に改善するわけではありません。一部の茶軸にはルブを塗布したあともキシキシという部材が擦れる不快感が残っていることがあります。これは使い込むことで徐々に改善していきます。

ビンテージスイッチ

長年使い込まれてきて非常に滑らかになったMXスイッチをビンテージスイッチとしてプレミア価格で買い取る人もいます。94年頃に製造された製品の品質がよく、非常に良く使い込まれているので極めて滑らかなスイッチに熟成しています。

これはゲーミングキーボードにメカニカルが採用された時期に粗悪品を乱発してたため、過去の製造品の価値が高くなった結果だというレポートもあります。

このように、メカニカル軸は使い込まれることで滑らかさが増し、価値が相対的に上がっていくものがあります。

オカルトの境界線

個人的には、このscratchy switch(傷つきやすいスイッチ)の慣熟方法などは、オーディオ界隈の「光ファイバーを磨く」やカメラレンズ界隈の「デジタルに紫外線フィルタ」に似たオカルトの匂いがします。

初心者のうちは「こういう深い世界もあるんだ〜」くらいの浅い認識で良いと思います。実際にスイッチに軋りを感じるようになってから、慣熟方法について再調査してみることをお勧めします。

【雑談】粗悪なスイッチとメカニカルの暗黒時代

Cherry MXメカニカルスイッチは1983年に特許が取得され、2013年に失効するまでCherry MX社のみがMXスイッチを製造していました。MX以外の規格のスイッチ(ALPS等)も存在はしていましたが、主流はMXスイッチで、ゲーミングキーボードにも採用されました。

しかし90年代にはMXスイッチは品質が悪化し、2000年代はメカニカルキーボードといえばザラザラ、ガチャガチャしたやかましくて粗悪で重いキーボードとして悪名高かったそうです。そのため、この時代にメカニカルキーボードに触れた世代は、「隣の人に迷惑をかける機器」という認識で、機械軸にあまり良い印象を持っていません。バックスプリング式と何ら変わりがありませんでした。

そういったキーボード王座空白時代に国内では静電容量無接点方式が躍進し、HHKBとRealforceの2大高級キーボードの時代が幕を開けました。

2013年にはCherry MX社の特許が失効し、多くの中華メーカーがコピー品を大量に作るようになってきました。初期はあまり品質の良いものではありませんでしたが、やがてその品質は本家を上回り、価格面でも圧倒的に安く、メカニカルキーボード本体の品質も比例して向上してきました。2024年現在ではオプティカルスイッチや磁気センサースイッチなどの無接点軸も登場し、勢いよく進化を続けています。

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