メカニカルキーボードの軸(スイッチ)でも部分的に解説していますが、cherry mx blueのスプリングノイズを改善するために「スプリングのみに潤滑剤を塗布する」方法を紹介しました。その中で「ステムやハウジングにルブが付着しないように注意してください」と記載しています。なぜなら、一度付着したルブはそう簡単には完璧に洗浄できないからです。
塗っちまったよ!
エタノール洗浄や界面活性剤単体では完全に洗浄することができません。GPL205の主成分であるパーフルオロポリエーテルは航空宇宙産業で使用されている潤滑油で、耐熱性と低い揮発性を誇る材料です。
このルブを除去するには、トリクロロエチレンのようなフッ素系溶剤が必要になります。これらは研究実験用の製品なので、個人で入手する方法はありません。
大量の青軸を並べてすべてのハウジングとステムにご丁寧にルブを塗ってしまった方には、一応ダメ元で洗浄する方法を紹介します。
アルコール&超音波洗浄機+界面活性剤
この方法は「別のルブに塗り直したい」「追いルブしたい」というケースで使う方法なので、完全に除去することができない可能性があります。
注意事項
アルコールなどの引火性液体を超音波洗浄機の洗面器に直接入れないでください、非常に危険です。
5分以上の洗浄はお勧めできません。スイッチ部品に思わぬ影響を与える可能性があります。5分以上洗浄してもルブが除去できない場合は別の方法を考える必要があります。
1.ルブを除去したい軸を分解する。
軸を完全に分解して、ハウジング、ステム、スプリングを分けます。青軸のハウジングとステムからルブを除去する場合、洗浄が難しいスプリングは別の容器に分けておいてください。
2.分解したハウジングとステムをアルコールに浸した綿棒で拭く
脱脂性の強いイソプロピルアルコールを使います。手につかないように気をつけてください(手荒れします)。
アルコールは樹脂の変性、シミの原因になるため、ハウジングやステムをアルコールに浸すことは推奨されていません。綿棒に染み込ませたアルコールでルブがたっぷり付着した部分から見える範囲で除去を試みます。
もしスプリングのルブも洗浄したい場合、こちらは金属なので、ビニール袋に入れてアルコールに浸すことができます。ガシャガシャ振らないようにしてください(スプリングが絡まって外れなくなります)。
3.自然乾燥させる
アルコール洗浄した部品を自然乾燥させます。日光に当てないように、風通しの良い日陰においてください。
乾燥が終了した部品はエアダスターで埃を除去しておきます。目に見えない埃が残っていると、このあとの超音波洗浄でスイッチ内部にこびりついてひどい状態になります。
4.超音波洗浄機に入れて界面活性剤で洗浄する
乾燥した部品をガラス製のメイソンジャーに入れて、水と界面活性剤(台所洗剤でいいです)を投入します。界面活性剤の代わりにアルコールを使う方法もありますが、強いアルコールは樹脂にシミを残すことがあります。
メイソンジャーを水を張った超音波洗浄機に入れて、2〜5分ほど洗浄したらステンレスのメッシュザルなどに取り出します。水と界面活性剤の場合は水洗いしてください。アルコールを使用した場合は、適切な処理を行ってください。イソプロピルアルコールは産廃です、家庭ごみに出せませんし、流しに捨てないでください。
2のアルコール工程をスキップした場合、この段階で洗浄液が白濁して余計に悪化することがあります。そういう場合は洗浄液を入れ替えて繰り返し洗浄してください。
5.自然乾燥させる
ティッシュなどに水分を吸わせて丸一日以上自然乾燥させます。
猛烈に手間がかかりますが、これでルブの洗浄ができるかもしれません。
6.スイッチを組み立てて検証する
最後に軸を組み立てて、動作検証を行います。
私はこの方法で、洗浄した青軸の半数のクリック音を取り戻すことができましたが、もう半数には効果がありませんでした。
諦める
上記、洗浄方法は非常に手間がかかる上に、手順を間違えるとスイッチ自体を破損してしまいます。特に潤滑剤にGPL105g0、205g0などを使用している場合は、不活性すぎてなんの効果ももたらさない可能性があります。
タクタイル化した青軸は、青軸タクタイルという新モデルとして割り切って愛用していくしかありません。前向きになりましょう。
参考文献
How to Fully Clean Lube on Switches
Ultrasonic Switch Cleaning with Isopropyl Alcohol and Supporting Microscope Images
アイキャッチは【デジタル式 15L/40kHz 超音波洗浄機】 タイマー/ヒーター/中型洗浄器クリーナー 業務用 [60A]