メカニカルキーボードは使用者の好みの打鍵音を追求するために、ある程度のカスタムが可能です。いくつかのパーツを交換するだけで劇的に改善することもあります。
打鍵音を静かにしたい、とか、あるいはよりやかましくしたい、だけでなく、Clackyな底打ち音を響かせたい、もっとThockyで上品な音にしたい、といった個人的な嗜好にも関わってきますので、一概に「こうすることで打鍵音が確実に改善する」という万能な方法はありません。様々なカスタム方法を組み合わせて、個人の好みを追求する楽しみがあります。
スイッチ
まず基本的なことですが、スイッチは打鍵音の重要な要素の大部分を占めています。「リニア軸なんてどれも一緒でしょ」という大雑把な考え方では理想を実現することはできません。クリッキー軸もgateronとcherry mx、kailhでは全く音が異なります。
スイッチを交換する
スイッチの交換は打鍵音改善に最も効果的な手順です。
例えばリニア軸を選択したとき、静音性を求めるなら静音のリニア軸から良いものを選定します。リニア軸のスムーズな打鍵感で、明確なフィードバックが欲しい方は、底打ち音がClackyな軸を選びます。これは軸単体の音とキーボードに装着したときの音を事前に確認することをお勧めします。打鍵音が確認できないスイッチをギャンブルで購入するのはリスクが大きいです。

The Best Quiet Switches for your Keyboard
スイッチフィルム
スイッチのトップハウジングとボトムハウジングの間に挟んで噛み合わせをタイトにし、微細なガタツキをなくす部品です。これを行ったところで劇的な変化はありませんが、「コンコン」という音が「カツカツ」くらいに変化するのを期待できます。

120 pcs 0.15mm Polycarbonate Clear Switch Film
追いルブ
最近のスイッチとスタビライザーには最初からルブが塗られていますが、十分ではありません。スイッチを分解して自分で丁寧にルブを塗っていくことで、カスカスした打鍵ノイズが改善します。

Lubing Keyboard Switches: Tips & Techniques
スイッチフォーム
PCBとスイッチの間に貼る柔らかい素材のシールです。スイッチとPCBの間の底打ちを緩衝するためのものですが、PCBと相性が悪いとスイッチが正しく装填できずに反応しなくなることがあるので注意が必要です。個別に購入することもできますが、ルブキットについてることがあります。

Oリング
劇的な静音化のために推奨されるのは、キーキャップのステムに専用のOリングを装填することです。このOリングはルブキットなどに大量に含まれていることがあります。
Oリングの静音効果は極めて高いですが、トレードオフとして打鍵感が著しく損なわれます。メンブレンのようなゴム感がでてしまうので、打鍵感を損ないたくない方はこの方法は避けるべきです。

The Best O-Rings For Silencing Your Mechanical Keyboard
スタビライザー
スタビライザーは打鍵音に不快なノイズを発生させることが多い部材です。ここを改善することで、打鍵音だけでなく、打鍵感にも影響を与えることができます。
ガタツキを軽減する絆創膏
スタビライザーがプレートやPCBに装着されているクリップ部分に、小さくカットした絆創膏や粘着テープを貼り付けて、装着をよりタイトにすることでガタツキを軽減することができます。これはスコッチテープ方式と呼ばれる改造で、特にプレートマウントのスタビライザーに効果的です。

Pre-Cut Stabilizer Tape for Band Aid Mod mechanical keyboard
スタビライザーガスケット
PCBのスタビライザーが底打ちする部分に専用のフィルムを貼ります。このフィルムは紙製、フィルム、金属製などがあり、素材によって底打ち音が変化します。
難点はこのスタビライザーフィルム自体が入手困難なことです。百均のシールを加工して重ね張りすることで代用できますが、静音効果は低下します。

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ノンスタビライザー化
メカニカルキーボードを社長に譲ってもらいましたのでカスタマイズしてみました
こちらの記事で「スタビライザーはどんなに潤滑してもある程度の騒音が発生します」と直球で明示されています。更に言えば、最近の精度の高い軸とPBTキーキャップを使う以上、スタビライザーが必要なのはスペースキーくらいです。
高級キーボードであっても、個体差によってEnterキーやBackspaceキーのスタビライザーの底打ちが著しくやかましいものがあります。これを改善するにはスタビライザーを入手困難な高級品に差し替える必要がありますが、EPOMAKER製のように交換が困難なものも存在します。そういったキーボードの場合、スタビライザーフィルムを貼ったり、スタビライザーステムの底を研磨するという労力のかかる改造を施すよりも、さっさと取っ払ってしまった方が容易に改善することがあります。

How to remove or adjust the stabilizers
スタビライザーを除去すると、スイッチ単体で横長のキーを支えることになるため、スイッチノイズが大きくなることがあります。また、それまでの底打ち音とは違う音が響くこともあります。
研磨
スタビライザーステムの底面を研磨することで、底打ち音を改善することができます。底面の衝突面積が大きいほど、底打ち音も甲高く大きな音になりがちです。この底面をわずかにカーブするように研磨することで、接地面積を最小化し、底打ち音を改善することができます。
ステムの底面は非常に薄いため、研磨しすぎないように注意してください。研磨すると削りカスが大量に付着するため、超音波洗浄した上で爪楊枝などで内部の汚れを除去し、ルブを塗り直してください。
防音フォーム
防音フォームは
- プレートとPCBの間に挟むもの
- PCBの下(底面)に詰め込むもの
の2種類があります。
特に、プレートとPCBの間に挟む防音フォームは自作キットには付属していますが、めんどくさがってつけていないのであれば、追加してみることをオススメします。この防音フォームは打鍵音を静かにし、よりThockyなサウンドへ進化させることができます。このフォームはそのキーボード専用のものでなければなりません。
PCBの下、つまりキーボードの底面に詰め込む防音フォームは、0.5mm前後のウレタンシートを適切な形状にカットしたもので十分です。底面の空間をなくすことで、打鍵音の反響を抑えることができます。

Best Sound Dampening Foams For A Keyboard
プレートを交換する
プレートによる打鍵音の変化でも書いていますが、金属プレートとプラスチックプレートでは打鍵音が変わります。POMやFR4のような柔らかい素材の方が上品な打鍵音になりますが、ソリッドな音を好む人は金属プレートに交換することを考えると良いと思います。
プレートを交換するには、お使いのキーボードに適合する交換プレートをメーカーが販売している必要があります。自作キットやカスタムモデルなどには交換プレートが存在しますが、中級品以下のキーボードには選択肢はありません。
ガスケットのあるキーボードで柔らかいプレートを使っていると、スイッチがきちんと装填されていないことがあります。
デスクマットを敷く
金属筐体のキーボードではそれほど効果はありませんが、プラスチック筐体のキーボードは底打ち音がデスクまで貫通し、デスク全体に響いていることがあります。これが「メカニカルキーボードってなんかうるさい」の原因の一つとも考えられます。
