アイキャッチは NuPhy Gem80 QMK/VIAカスタムメカニカルキーボード より引用
メカニカル初心者7つの疑問 でも書いたばかりですが、最初から高級機を買うのは良い考えではありません。カメラ初心者が初めてのカメラにLeica M11(150万円+レンズ代)を選んだとして、写真が好きになるでしょうか? マニュアルフォーカス、マニュアル絞りに戸惑い、レンジファインダーを片目閉じて覗き込んでガッカリする光景が目に浮かびます。
最初はエントリー機で良いと思いますが、将来的には高級機に目を向けても良いと思います。
- エントリー機を購入する
- 高コスパ品を購入する
- 最初の高級機を購入する
こんな感じでステップアップすると、高級機の何が良いのかが明確に判別できると思います。
高級機とは
メカニカルキーボードに「高級機」という明確な定義はありません。人によってその範囲が異なります。この記事内では「それより上位互換機種が存在しないモデル」を大まかに高級機と定義しています。
メカニカルキーボードの高級機は3万円以上の機種で、金属筐体が使われています。メーカーのフラグシップモデルに多いです。
金属筐体を使うことで、ボディ剛性は飛躍的に向上し、打鍵音も全くの別物に変わります。プラスチック筐体は剛性が低いため、内部に特別な静音加工を施さない状態では打鍵音がボディを貫通し、デスクに響いてしまいます。どんなに優れた機種であっても、プラスチック本体ではプラスチック特有のガシャガシャ感があります。このガシャガシャ感が一度気になると、永久に慣れません。これが好きだという人もいますが。
金属筐体のメカニカルキーボードは特有のコトコト感があります。
現在の高級機は標準的にガスケットマウントという内部プレートを支える柔らかいクッションが備わっており、打鍵音が本体に響かないように工夫されています。金属筐体で打鍵音を響かせたいという人は、ガスケットを取っ払うことがあります。全打鍵がミサワ化します。
また吸音フォームなども備わっており、キーの打鍵以外の音を極力押さえていることが特徴です。プラスチック筐体の場合は、その打鍵音はキーそのものだけでなく、底打ちしたときのボディの音、そしてそのボディからデスクへ響く音も含まれていることがあります。純粋な打鍵音ではありません。非常に安っぽい音です。
更に高級機はスイッチを支えるプレートがしっかりしており、軸のブレが最小限に押さえられています。安価なメカニカルキーボードのプレートは精度が悪く、キーが正しく一直線に並ばず不揃いになることがあります。更にキーに指を乗せて左右に揺らすとグラグラ揺れてしまいます。打鍵しているときにこのグラつきはかなり気になります。
高級機の特徴
高級機には明確な特徴があるわけではありませんが、多くのラインナップに共通する項目がいくつかあります。これらの項目がすべて、あるいはほとんど当てはまる場合は高級機と考えて良いと思います。
「ホットスワップ対応」がありませんが、高級機にははんだ付けPCBが選択肢になっているものがあるため除外してあります。
価格が高い
国内販売価格が3万を超えるものは基本的に高級機に位置づけられます。海外から直接購入する場合は、為替レートや輸送費などの影響もありますが、値引き前の価格でやはり3万は超えます。
2万円台でも高級機然とした機種も存在しますが、調べてみると細かいスペックに疑義があります。
フルメタルで重い
本体が金属製です。サイドだけ金属とか、底面だけ金属のモデルは高級機ではありません。そういう機種は打鍵音も結構中途半端な印象です。スペックシートには明確には書かれていませんが「アルミニウムまたはプラスチックフレーム」のような表現があると、プラスチック部材が含まれていることがあります。
高級機は打鍵の安定性のために、真鍮などのウエイトバーまで入っているものが多く、75%でも1.7kgはあります。持ち運びをまるで考慮していませんが、持ち運び用の専用バッグが売られていることがあります。
高さ調整の足が無い
金属製でウエイトまで入っている高級機には、高さ調整のための安っぽい足がついていません。構造上、足をつけると足自体が軋る可能性があるため、あるいは足の剛性が確保できないためか、すべての高級機で足をみたことがありません。
高さ調整の足は後付できますが、基本的に高級機では足をつけることはありません。
ガスケットマウント
現時点での高級機はすべてにガスケットマウントが入っています。少し前の機種には入っていないものもありましたが、現在ではガスケット構造、ダブルガスケット構造、あるいはそれらの機構が何種類か選択肢があるのが普通になっています。
購入時のオプションでガスケット構造の方式、あるいはテープMODなどの選択もできます。
底面に意匠
すべての高級機に当てはまるわけではありませんが、この意匠があるものは非常に高品質です。
これは高級機メーカーが特に自信のある製品に施すことがあります。持ち運びしない高級キーボードにおいてその底面は使用中は決して見ることがないにも関わらず、非常に凝った意匠が施されている機種があります。これはそのメーカーの、製品に対する職人的な自信の現れのようなものだと思えます。
mode – SixtyFive より引用
VIA/QMK対応
独自マッパーではなく、VIAに対応しているものがほとんどです。スペック表に明記されていなくても、VIAにつなぐと普通に設定できてしまいます。
何を基準に選ぶか
高級機の価格帯が高いと感じるか安いと感じるかは人それぞれだと思いますが、毎日触るキーボードにかける金額としては高すぎる製品とは言えません。そのため、相場より安価な金属筐体のキーボードを「高コスパの高級機」と誤認してよく調べずに買うのは危険です。コスパは良いですが、部品の精度が悪いです。精度の悪さは指先に伝わります。
まずは価格が高いものを列挙して、打鍵音や使用者のレビューをつぶさに調べていくのが安全だと思います。高級機は購入者がレビューを上げることが一般的なので、動画サイトなどでいくらでもみつかります。メーカーが有名なyoutuberに試用機を貸し出してレビューしてもらっていることもあります。キーボードのレビュアーは案件でも忖度せずに悪いところも含めてレビューされているので、信憑性は高いです。
打鍵音を基準に選ぶ
打鍵音で高級機を選ぶ場合は、「機種名 sound test」で動画検索して、打鍵音の動画を聴くことができます。録音環境によっては実際とは異なる音になっていることがありますが、複数の動画を確認することで大体のイメージを掴むことができます。打鍵音テストでは使用している軸についての解説が入っています。自作キーボードの場合はPCB、プレート、フォームの種類やガスケット構造についての説明も入っていることがあります。
打鍵音の好き嫌いは個人差が非常に大きいので、入念に調べたほうが良いです。「動画ではこういう音だけど、世間の評判がいいから実際は良い音なのだろう」と思い込んで購入すると裏切られます。
打鍵感を基準に選ぶ
打鍵感だけは実際に触らないとわかりません。打鍵音テストの動画をみることで、ソリッドな打鍵感なのか、もう少し柔らかい感じなのかをある程度想像することはできます。
打鍵感のレビューをくまなく探すことで、特徴的な気づきについて解説されているものをみつけることがあります。高級機の場合は非常に細かい打鍵感を検証していることが多いため、例えばキーボードの中心付近のキーと外側のキーとで打鍵感や打鍵音が異なると、それを指摘し、改善するための改造方法を指南するものがあります(多くの場合、これらの動画は英語です)。
見た目で選ぶ
外観は所有することの満足度に直結する非常に重要な要素です。
高級機はほとんどの場合、非常に洗練された外観を持ち、スペック表にも細かいサイズ表記があります。本体の色とキーキャップのカラーリングを検討し、現在の部屋やデスク、常用しているパームレストに合うかどうかを事前に検証することができます。特に普段使いのパームレストが決まっている場合は、色だけでなく横幅や高さについても調べておくべきです。パームレストは一般的に18mmですが、キーボードによっては20mmのものもあり、この2mmの差が腱鞘炎の原因になることがあります。
機能で選ぶ
高級機は機能性自体はあまり売りにしていませんが、VIA対応、RGBバックライトの切り替え、ホットスワップ、ガスケットマウントには対応しています。
それ以外の、例えば無線規格については別の記事でも指摘していますが、技適マークのない機種は国内では所有することができません。有線接続していても、電源を入れた時点で違法になる可能性があります。高級機の中には国内代理店が販売していないものも多く、その一部には無線機能が搭載されている可能性があります。そういった機器を選択肢に含めないように注意するべきです。